土曜日

回収 (平成編)


「おらあ!お前が取ったのだろう!」

「間違いない。正直に言え!」


大阪の事務所の一角で営業部員が名で

取り囲み、その店舗の会計係を詰問する。

 

前日の夜、最終業務の締め作業。

現金が300万円、足りない。

店長も、駆けつけた営業部員も、

何度も何度も数え直し、

原因をあらゆる角度から推察するが、

出てこない

 

看過できない。

金額が多すぎる。

当時の統括部長が躍起になって犯人捜しを。

当日の出勤していた社員全員に聞き取りをし、

有無を言わさず身体検査から、

入寮者は部屋の捜索、全社員の車内の

チェックをするが、現金が出てこない。

 

他店で別の案件では、

同じように尞のチェックをしたときも

同様に現金は発見できず、代わりに男性社員の

ベッドの下から女性用の下着が大量に出てきて、

また違う問題に発展したこともあった。

 

今回は、金額も大きく、すぐに

オーナーの耳に入ったこともあり、

部長は犯人を特定するまで後に引けない。

対象の会計係は、入社して年ほどの

40才の男性だ。普段からの動向では

特にギャンブルにハマった兆候や女性関係、

生活態度には問題はなかったが、

当日の金庫キー所持者だったため

対象者とされ、詰問されているわけだ。

 

本人は否認する。強く否定する。

「そうですか」

というわけにはいかない。

真ん中に彼を事務所の回転いすに座らせ、

車座になって営業部員の名が

前後から脛、腿を蹴り上げ、椅子から何度も

蹴落とし圧力をかけていく。

 

「お前しかおらん。白状しろ!」

「知らんでは済まない。」

いくら本人が否定しようが、

部長は彼を犯人に仕立て上げようと必死だ。

 

本人が黙りこくって、

否定も、肯定もしなくなった明け方まで

尋問(拷問)は続き、金銭がない以上、

金庫キー所持の会計係が犯人だと部長が認定し、

翌日より営業部は紛失した金額に見合うべく、

なんとしても失った分を回収すべし、との

部長からの厳命に応えるべく、保証人や親族

巡りの虚しい仕事に奮闘していくわけだ。

 

さすがに彼を拘束し、

閉じ込めておくことはできない。

このような状態になればいつものごとく

当事者はドロンする。

逃げる。

逃げた時点で彼が盗んだと特定され、

オーナーにはそう報告され、

警察にも被害届も出さずにウヤムヤに。

 

このようなパターンで

私がこの業界に入ってから

回ほど大きな金銭紛失があった。

数万円程度ならもっとある。

が、通常では計数管理は徹底され、

百円の誤差もなく

(誤差がないのが当たり前)

営業は続いていく。




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