土曜日

トンコ (昭和編)

 


 昭和63年の春。

 

田舎のホールでの出来事。

 

「きゃー!」


2階の寮全体に響き渡る叫び声。


「どうしたん?おばちゃん」

 

2階に社員寮があり、慢性的な人手不足や社員確保のため 

我が業界では住み込みでの業態が一般的。


その店舗でも独身用、夫婦社員用の部屋を合わせて八部屋ほどあり、

昨夜、ひさしぶりに新入社員の独身の男性が入寮したばかりでした。

 

「う、う、うんこ!」

 

昨夜入寮した社員の部屋のたたみの上に、ほんのりともられた、

まさに人間様のうんちのみ残され、人間はそのままトンコ。

 

トンコとは無断退社による「逃走」の意味で我が業界では日常の出来事。


しかしながら、これ見よがしに、1日も仕事もせず、昨夜 

急きょ入寮し、所持金もないため、タバコを与え、

あったかい食事を与え、フロにも入れ、寝具も当然与えた御礼が


「うんこ」

 

「でも、畳の上に新聞紙1枚敷いていてくれて助かったわ」

 

おばちゃん、よかったね。





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