火曜日

匂い

 

和歌山出身のK店長は、元大工。

煙草の本数はかなりだが、酒は飲まず、

口数の少ない寡黙な男だ。

綺麗な年上の奥さんも一緒にカウンター係

として働いている。

奥さんとは色々訳あって一緒になったようだが、

詳細は聞かない。店長からも話はしない。


真面目な男だ。ギャンブルもしないし、

派手な遊びもしない。

在職も長く、過去に社内旅行や、食事会参加時には

何度も機会があったが、彼は一緒に風呂やサウナに

入ったことがなかった。

身体から墨の匂いがする。

全身に昇り龍の刺青が入っている。

暴走族上がりで、どこかの組の幹部だった、等。

尾ひれがついて噂が大きくなる。


事実、誰も彼の裸を見たことがなかった。


と言って話題には面白がって上がるが、

誰も聞かなかったし、確認もしなかった。

謎は謎のままで、が社内の安定した空気だ。

なんでも面白がって話題を作って

法螺話にしてしまうだけだ。

 

事実は、極度の潔癖症で

共同風呂やサウナが嫌いなだけだ。

大工時代にちょっといたずら書きを入れただけで

全身から墨の匂いを発するような刺青もなく、

暴走族出身の組の幹部でもなく、見た通りの

「真面目で寡黙な男」だけの事だ。

 

でも、いつも木刀を隠し忍ばせていたけどね。




写真素材 pro.foto

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