火曜日

姑息な手段

 

主任、今日もあのシマ、割が高いなあ」

「梅雨に入ってから湿気が多いね」

「影響してるんじゃないですか」

「ヒーター、入れまひょか?」

 

この店は、ホルコンはダイコク電機で、

ライン(島設備)は竹屋だ。

シマの中には湿気取りで、ヒーターを配置していた。

 

この店舗の立地は、もとは田んぼだった。

梅雨時期は、湿気で島中のトユ上の遊技玉が

ダンゴになって玉が流れないほど、影響があった。

 

パチンコ遊技機のセル盤は数枚合わせの合板だ。

湿度が高くなれば、玉が絡みやすく釘が甘くなる。

ヒーターで熱くなると、玉が弾きやすく、

通常は辛くなる。

 

本来は、日々の釘調整をきっちりやっておけば、

営業中に右往左往することもない。

 

「主任、ヒーター効いてきたで。割が下がって来たわ」

効果てきめんだ。

 

しかし、ヒーターを入れると上から温められた玉が

台間の玉貸機からも出てくる。


「あちち!玉が熱くて、さわれんぞ」

「どないなっとんじゃ、玉も入らんぞ」

 客が騒ぎ出した。


温度調整がバカになっていたようで、

「ほんまや、熱くて玉が持てんぞ、主任」

それ以降、遊技玉が温められて熱いときは、

みなさん敬遠され、玉が弾きやすいのが、

バレちゃいました。




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月曜日

才能


「おらぁ!」

「でかい車に乗っとるんが、偉いと思っとるんかい!」

「降りてこんかい!ボケ!」

 

国道を走行中に、愛車のベンツのサイドミラーが

トラックと接触し、店長の怒りが爆発したようだ。

 

すれ違いざまだったようで、トラックは停車せず、

そのまま逆方向へ。

瞬間湯沸かし器の店長は、強引にUターンし、

追いかけ、追い越し、前に回り込み停車させた。

 

まあ、相手が高級車で、丸坊主で、いかつい面相、

声が大きいオヤジが乗っていれば、普通は逃げるか、

覚悟するしかないよね。

 

暴言、恫喝を一気に繰り出し、一気呵成に相手を追い込む。

本人の努力?訓練?もあるのだろうが、一種の才能だね。

 

間近で見てきて、この種の一気に畳みかけて相手を

追い込んでいく口舌、口説、口上の滑らかさ、迫力。

 

凡人なら常に臨戦態勢で待ち構えて、準備していなければ

出来ない状況でも、彼らは、瞬時に切り替えられる脳の回転。

これは、やはり才能だろうと思う。

この種の人間とは関わらないほうがいいね。 




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金曜日

夏休み

 

小さいころは町の水路のような小さな川でも、

ウナギが取れ、メダカやフナや鯉もいた。

水は綺麗で夏にはひんやりして、川遊びは楽しかった。

水藻を足でかきまわすと、ちいさなタニシがいっぱいだ。

小2まではザリガニも小さく、ニホンザリガニだったが、

小3くらいから赤く大きなアメリカザリガニが登場してきた。

 

雨が降った後、土の水たまりにはアメンボがいて、

田んぼのあぜ道の小川には、

ヤゴやゲンゴロウ、おたまじゃくしがいた。

アマガエルやトノサマガエルが、大きな食用ガエルに

浸食されていったが、トンボやアゲハ蝶は優雅に飛び廻り、

とがった小枝の先には、モズの生贄のカエルが干されていた。

 

なかなか正体を見せないモグラの代役として、

オケラ(モグラコオロギ)を捕まえ、遊んだ。

 

ある時期から町の水路の上には暗渠がかかり、

土の道にはアスファルトがひかれ、

田んぼの肥溜めもなくなった。

 

町並みはあまり変わらなかったが、

生き物がいなくなった。

 

私には1歳を過ぎたばかりの孫が2人いるが、

彼らの世界には

私が見た生き物のほとんどが身近にはいない。

 

小さい子供の目線では、世界はどう見えるのだろう。

自然には回復力がある。

まだまだ、生き物は多様にいるだろう。

もう少し大きくなったら、出来るだけ自然には

触れさせてあげたい。




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