火曜日

匂い

 

和歌山出身のK店長は、元大工。

煙草の本数はかなりだが、酒は飲まず、

口数の少ない寡黙な男だ。

綺麗な年上の奥さんも一緒にカウンター係

として働いている。

奥さんとは色々訳あって一緒になったようだが、

詳細は聞かない。店長からも話はしない。


真面目な男だ。ギャンブルもしないし、

派手な遊びもしない。

在職も長く、過去に社内旅行や、食事会参加時には

何度も機会があったが、彼は一緒に風呂やサウナに

入ったことがなかった。

身体から墨の匂いがする。

全身に昇り龍の刺青が入っている。

暴走族上がりで、どこかの組の幹部だった、等。

尾ひれがついて噂が大きくなる。


事実、誰も彼の裸を見たことがなかった。


と言って話題には面白がって上がるが、

誰も聞かなかったし、確認もしなかった。

謎は謎のままで、が社内の安定した空気だ。

なんでも面白がって話題を作って

法螺話にしてしまうだけだ。

 

事実は、極度の潔癖症で

共同風呂やサウナが嫌いなだけだ。

大工時代にちょっといたずら書きを入れただけで

全身から墨の匂いを発するような刺青もなく、

暴走族出身の組の幹部でもなく、見た通りの

「真面目で寡黙な男」だけの事だ。

 

でも、いつも木刀を隠し忍ばせていたけどね。




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月曜日


「あっ!5百円落ちている」

「もうけっ!」

グリーン上の5百円硬貨を拾いあげ、

O課長が喜んでいる。

 

「あほ!わしのマーカーや!」

 

ゴルフボールのマーカー(印しるし)として、

常務はいつも5百円硬貨を使用している。

 

おっちょこちょいな男だが、憎めない。

いつもバカ話をして皆を笑わせている。

ほとんどがホラ話だが。

口が達者で話し出すと止まらない。

舞台上の漫談師のようだ。

 

仕事は少し乱雑だが手が早い。釘調整も達者だ。

入社は私より5年以上早い。

店の中の従業員の出来事、噂、あることないこと

なんでも面白おかしく話すので、

営業部のムードメーカーだった。

 

彼は一般募集から入社し、早々に目をつけられて

役職者に登用され、割と早い段階で、

本店の店長も経験していた。

 

昭和の終わりから平成にかけては店舗数も

どんどん増え、人材不足のために一般募集で入っても、

やる気さえあれば、すぐに登用された。


中途入社で、特別のスキルがあるわけでもなく、

目先が利いて(業界では気が走る、気が回る)、

根性があれば(滅私奉公)、チャンスを掴めた。

良い時代だった。


しかし、彼も社内で、それなりの年数がたつと、

会社はそれまでの実績など関係なく、毎年入社してくる

幹部候補生のために、古株は順番に肩を叩かれる。


パチンコ業界的には40才くらいが一区切りか。


新卒で入社して7~8年で一人前なら、

30才前後で店舗長に。

それから伸びる人材は営業部で、10年ほど部課長で

勤務し、次に下から上がってくる人材と入れ替わる。


会社(経営者)は常に新しい人材に囲まれ刷新できる。

働く方は「駒」だ。


営業部のムードメーカーも私同様、40才前後で

会社から放逐され、同じ業界で管理者として横滑り

できたが、あまり長くはなかった。


新しいところは、店舗数も少なく、

経営陣に問題があり(借入が多過ぎた)、最後は

良からぬ不正の噂も出て以降、消息不明となった。

 

私のパチンコ業界歴35年間で、現在も付き合いや

消息が分かっている人物は2名だけで、

あとの方は全て業界では消息不明となった。

まあ、普通の仕事に転職しただけだろうがね。




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革命


会社では早くから女性の正社員や役職者の登用を

取り入れていたと思うが、私が最後に所属していた

会社でも20年間で女性の役職者は4名ほどだった。

 

パートの女子はシングルマザーの子も多く、

何度か正社員に誘い、少しでも給与の良い役職者の登用も

提案したが、やはり休日数が少ないこと、

拘束時間が長いことなど障害が多くて厳しかった。

 

早番専門9:00~16:00までの勤務の固定化や

様々な変則勤務など、いろいろ考えたが

スタッフ、役職者の絶対数が少なく、お互いを

カバーできない状態ではやはり無理がある。


日本社会全体が「働きやすい環境」や

「子供を社会が育てる」意識や法整備もそうだが、

個人経営の会社では、経営者の考え方ひとつで

実現できることは多いとは思うが、

金のない人間は夢を描くが、金持ちは現実を見るので、

このギャップは埋まらない。


この数十年間支配してきた「自己責任」。

は、重いね。

社会が大きな漬物石に押しつぶされ、沈み込んでしまった。

孫の世代以降はこの国からの脱出もあるかもしれんね。

何か大きな意識改革、革命が必要だ。




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