木曜日

怪しい奴


ある地区の営業部時代。

営業所は駅に近い店舗の2階にあった。

店舗の上が、まるまるスペースなので、

10畳分ほどパーテーションで間仕切り、

残りは遊技台の倉庫として使用していた。

 

ある日、私一人で事務所にいた。扉は施錠せず、

10分ほど1Fのホールの所用を済ませて2Fに戻ると、

他の地区のK課長が営業所の大型金庫の前にいた。

 

「あれ?」「いつ?」「おはようございます」

彼は、慌てた様子で、振り返り、

「あ、お、おはようっす。」

「金庫が開いていたで」

「えっ?そんなはずは」

 

当時、そこの営業所は私の上長にO課長、

下に営業部員が1名、係長の私の3名体制だった。

営業所の大型金庫の鍵は、自分は所有しておらず、

O課長が所持管理していた。

店舗の金庫もそうだが、金庫のダイヤル部分は、

ガムテープで動かないように固定し、

開閉は鍵のみで使用していた。

 

K課長指摘の通り、確かに金庫は開いていた。

 

すぐにO課長に連絡し、確認する。

「えっ?昨夜、ちゃんと施錠した」

「部員の子と二人で確認したぞ」

 

しかし、金庫は開いている。

その後、O課長と営業部員もかけつけ、

金庫内をチェックしたが、紛失はなかった。

 

営業部の金庫には各店の金庫の

スペアキーも保管していた。

万が一、店舗で紛失、担当者不在の事案が

あれば、代用出来るようにだ。


以前から、店舗での大きな現金紛失時に、

いつも、K課長は応援、担当などで在店していた。

彼は、各所のスペアキーを持っているのではないか?

その疑いは数人だが、以前から聞いていた。

 

当地区の金庫をスペアで開け、私がすぐに戻って

きたので、差したカギを抜くのが精いっぱいで、

胡麻化したに違いない。

 

副社長、部長に毎日提出する「報告書」に

事の次第を書き、内部調査の必要性を訴えた。


K課長は上層部には、可愛がられる存在だった。

私の提起は大事にならず、すべて不問に。

私にも、K課長にもその後、上層部からも、

この案件が話題になることもなかった。

K課長から私への抗議もなかった。

 

けっこうな重大案件だが、その後、

グループ内での大きな金銭紛失はなくなった。

 

「怪しい奴だ。まちがいない」と

今でも思っている。




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火曜日

応援

 

今日は違う県の系列店へ新台調整の応援に行った。

まだ、この地区は店休が月4回あり、

前夜に入れ替え作業を終わらせ、

今日は朝から新台調整と、

明日からの全台時間打ち営業のための全台調整もあった。

 

応援は新台の調整だけで、10台ほど。

丁寧にやっても、2時間もあれば余裕だ。

ここの店長は55才で、系列店のなかでは、

ベテランだった。

 

しかし、以前から噂は聞いていたが・・・

 

いざ、調整となると、なかなか始まらない。

様子を伺っていると、手が震えている。

やはり、飲まないとダメなようだ。

 

「店長、飲みたいんやったら、構わんで」

「部長には黙っとくし」

 

当然のように内ポケットからウイスキーの小瓶を取り出し

ちびちび飲みながら、作業開始となった。

 

私のほうは、いつものように集中し、

1時間半ほどで、新台の調整は終了し、

肝心のヘソ釘の大きさを相談しようと、横のシマで

調整中のはずの店長を見ると、椅子の上で寝ている。

ゆすって起こすが起きない。

まあ、来た時から様子がおかしかったが、

昨夜からかなり飲んでいたのだろう。

 

仕方ない。

新台の命釘を板ゲージで、12.5の幅で決め、

他のコースも自分の担当店舗同様、いつものように

開店用のゲージにそろえ直し、上から他の役職者を呼んで、

店長を2階に担ぎ上げさせ、施錠させた。

 

後日、店長からの連絡もなく、彼は、

誰が応援に来たのかも、いつ、開店準備が終わった

のかも、記憶になかったようだ。

ひょうひょうとその後、数年間勤め、

ある日、2階の寮の自室で病死していたらしい。

自分の担当部下ではなかったので、

彼の普段の評価はわからないが、まあ、

そういう店長がいてもケンチャンナヨ(かまわない)か。





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姑息な手段

 

主任、今日もあのシマ、割が高いなあ」

「梅雨に入ってから湿気が多いね」

「影響してるんじゃないですか」

「ヒーター、入れまひょか?」

 

この店は、ホルコンはダイコク電機で、

ライン(島設備)は竹屋だ。

シマの中には湿気取りで、ヒーターを配置していた。

 

この店舗の立地は、もとは田んぼだった。

梅雨時期は、湿気で島中のトユ上の遊技玉が

ダンゴになって玉が流れないほど、影響があった。

 

パチンコ遊技機のセル盤は数枚合わせの合板だ。

湿度が高くなれば、玉が絡みやすく釘が甘くなる。

ヒーターで熱くなると、玉が弾きやすく、

通常は辛くなる。

 

本来は、日々の釘調整をきっちりやっておけば、

営業中に右往左往することもない。

 

「主任、ヒーター効いてきたで。割が下がって来たわ」

効果てきめんだ。

 

しかし、ヒーターを入れると上から温められた玉が

台間の玉貸機からも出てくる。


「あちち!玉が熱くて、さわれんぞ」

「どないなっとんじゃ、玉も入らんぞ」

 客が騒ぎ出した。


温度調整がバカになっていたようで、

「ほんまや、熱くて玉が持てんぞ、主任」

それ以降、遊技玉が温められて熱いときは、

みなさん敬遠され、玉が弾きやすいのが、

バレちゃいました。




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