木曜日

手をあげる


朝のお迎え利用者宅の前に車を付ける。

今朝は両親ともに玄関口に出ている。

ここが最後のお迎えで、あとは施設へ向かうだけだ。

自宅の中から彼女の叫び声が聞こえる。

いつもの事だ。玄関口から、車のドアへ勢いよく

乗り込み、習慣づけているシートベルをはめる。

 

「お母さん、嫌いや」「わー!!」

「プー!!」

父親の前で母親に唾を吐きかけた。

私も先日、運転中に彼女から同様の行動をされた。

 

重度の障碍者ほど行動障害が強く、自傷・他害に及ぶ。

彼女は他害行動が強く、施設の支援員は蹴られる、殴ら

れる、咬まれるなど何度も被害を受けている。

 

父親は、彼女の左ももを拳で打ち付け、髪の毛を引っ

張りながら、「何度も同じことをするな!」と激高した。

 

私は思わず、父親の肩を軽くたたき、注意を促したが、

髪の毛から手を放さず、興奮している。

他の利用者は様子を伺っている。重度の障碍者でも事態は

分かっているのだ。

 

私は父娘の間に入って、急いで車のドアを閉めた。

「出発します!」

 

父親の怒りもわかる。何度も同じことを繰り返す。

言う事を聞かない。自宅内外で喚き叫び暴れる。

目の前で家族に唾を吐く。障害児の親としての苦悩は、

他人には計り知れない。

私が同じ立場だったら、感情を抑制できるだろうか。

 

以前から施設内では親の虐待の疑念があると思われていた。

彼女の身体に数か所の痣があったからだ。

 

言ってもわかってくれない娘に、父親は日常的に手をあげて

いるのだろう。

 

預かる側の施設として、この利用者と家族と、どのような

形で関わっていくのだろう。

 

「福祉」って、いろいろとあるね。

一面的に簡単に解決できるものではない、というのは実感。




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